最近、仕事をしていてAIを使わない日はほとんどなくなってきました。
文章を書く。
会議の内容をまとめる。
資料を作る。
情報を調べる。
データを分析する。
プログラムを書く。
ChatGPT、Claude、Gemini、Microsoft Copilot、Notion AIなど、選択肢もどんどん増えています。
そして、AIを使う人たちの姿を見ていると、ある言葉が頭に浮かぶようになりました。
「AI侍」
AIという新しい武器を手に入れ、自分の仕事をより速く、より上手くこなすために、日々その使い方を磨き続ける人たちです。
AIという刀を磨き続ける「AI侍」
AIの進歩はとても速い。昨日まで知らなかった機能が、今日は当たり前になっている。新しいモデルが登場し、新しいAIサービスが生まれ、新しいAgentやWorkflowが紹介される。
一度覚えたからといって、それで終わりではありません。
AIを使って仕事をしている人は、
「もっといいPromptはないか」
「この作業もAIに任せられないか」
「このAIと別のツールを組み合わせられないか」
「もっと精度を上げるにはどうすればいいか」
と、試行錯誤を続けています。
まるで、毎日自分の刀を研いでいるようです。
もちろん、すべての人がそんなにAIに熱中しているわけではありません。
しかし、AIを積極的に使っている人の中には、確実にそういう人たちが増えています。
私は、そんな人たちを「AI侍」と呼んでみたいと思っています。
AI侍の隣で生まれる不安
一方で、その様子を少し離れたところから見ている人もいます。
「あの人はAIを使って仕事をしているらしい」
「自分よりずっと早く仕事を終わらせている」
「新しいAIについていけない」
「そもそも、何を覚えればいいのかわからない」
AIを積極的に使う人が増えるほど、使っていない人との間に、目に見えない差が生まれていく。AI侍自身も、「自分も常に学び続けなければならない」というプレッシャーを感じているかもしれません。
そして、AIを使っていない人は、「このままで大丈夫なのだろうか」という不安を感じる。
経営者からすると、さらに別の不安があります。
「社員がそれぞれ勝手にAIを使っているけれど、会社として大丈夫なのだろうか?」
こうして、AI時代には奇妙なことが起こります。
AIを使う人も不安。
AIを使わない人も不安。
そして、会社も不安。
会社の中に増えていく「一匹狼」
ここで、もう一つの言葉が浮かびます。
「一匹狼」
AI侍たちは、自分自身の仕事を効率化するために、それぞれが自分に合ったAIを見つけ、自分なりの使い方を身につけていきます。これは決して悪いことではありません。むしろ、AI活用の黎明期には非常に重要なことだと思います。
問題は、それぞれがあまりにも個人最適に走ってしまうことです。
AさんはChatGPT。
BさんはClaude。
CさんはGemini。
Dさんは自作Agent。
EさんはNotion AI。
それぞれが自分の「刀」を磨いている。しかし、会社全体から見ると、それぞれが別々の方向を向いている。
AI侍が増えた結果、会社の中に「AI一匹狼」が大量に生まれてしまう。
そんな状態が起き始めているのではないでしょうか。
個人の生産性と、組織の生産性は違う
例えば、ある社員がAIを使って、それまで1時間かかっていた仕事を10分で終えられるようになったとします。これは素晴らしい成果です。
しかし、その社員しかその方法を知らなかったらどうでしょうか。
どのAIを使ったのか。
どんなPromptを書いたのか。
どんなデータを入力したのか。
AIの回答をどのように確認したのか。
その方法が本人の頭の中にしか存在しなければ、それは「個人の生産性向上」ではあっても、必ずしも「組織の生産性向上」とは言えません。
本人が休めば、その方法は使えない。
異動すれば、チームから失われる。
退職すれば、会社から消えてしまう。
つまり、「AIを使える人が増えること」と「AIを使える組織になること」は、別の問題なのです。
「私のAI」から「私たちのAI」へ
ここで、AI活用の次の段階が見えてきます。
個人がAIを使うだけではなく、チームでKnowledgeを共有し、そのKnowledgeをAIが利用する。
例えば、Notionのようなコラボレーション型のWorkspaceでは、チームのドキュメントやKnowledge BaseとAIを組み合わせることができます。
これはAIの使い方を、「私のAI」から「私たちのAI」へ変えていく一つの方向だと思います。
個人が自分の知識をAIに与えるのではなく、チームが共有するKnowledgeをAIが扱う。そうなれば、AIは単なる個人のアシスタントではなく、チームの仕事を支える存在になります。
そして、ここで初めて「コラボレーション」というテーマが重要になってきます。
しかし、「共有」すると新しい問題が生まれる
ところが、ここから話は少し難しくなります。
AIがチームのKnowledgeにアクセスできるようになると、「そのKnowledgeの中に何が入っているのか?」という問題が出てくるからです。
顧客情報。
契約情報。
財務情報。
個人情報。
プロジェクト情報。
社内の機密情報。
これらをAIが検索・要約・分析できることは非常に便利です。しかし同時に、
「この情報をAIに渡してよいのか?」
「このAI Vendorはデータを学習に利用するのか?」
「データはどのくらい保持されるのか?」
「誰がAIを通じて情報を見ることができるのか?」
「AIの回答を誰がレビューするのか?」
といった問題が出てきます。
つまり、AIが個人のアシスタントであるうちは、個人の生産性の問題に見える。
しかし、AIが組織のKnowledgeにアクセスし始めた瞬間、それは企業の情報セキュリティの問題になる。
ここに、AI Governanceの必要性があります。
AI Governanceは、AI侍の刀を取り上げることではない
AI Governanceという言葉から、
「ChatGPTを使うな」
「顧客情報をAIに入力するな」
「AIを使うときは毎回承認を取れ」
といった「制限」を想像するかもしれません。
もちろん、守るべきルールは必要です。しかし、AI Governanceの目的は、AI侍から刀を取り上げることではないはずです。
むしろ、AI侍が安心して刀を振るえる環境を作ること。そして、AI侍たちがそれぞれ磨いた刀を、組織として活かせるようにすること。
そのためには、
* どのAI Vendorを利用してよいのか
* どのようなデータをAIに入力してよいのか
* Customer DataやPersonal Dataをどう扱うのか
* AI Vendorのデータ保持や学習利用をどう評価するのか
* AIの出力を誰がレビューするのか
* 優れたPromptやWorkflowをどう共有するのか
* AIによって作られたKnowledgeをどう組織に残すのか
といったことを考える必要があります。これはAIを「縛る」ためではありません。AIを組織全体に広げるための土台です。
AI侍を「軍団」にできるか
100人の社員がいる会社に、100人のAI侍がいる。それは、一見すると非常に強い会社に見えます。
しかし、100人が100通りのAIを使い、100通りの方法で仕事をしていたらどうでしょうか。
それぞれのAI侍が持っている知識やノウハウが共有されなければ、会社としての力にはなりません。
逆に、
個人が自由にAIを試す。
↓
良い方法をチームで共有する。
↓
Knowledgeを組織に蓄積する。
↓
AIを業務プロセスに組み込む。
↓
必要なセキュリティやアクセス管理を行う。
↓
AI活用そのものを会社のCapabilityとして育てる。
ここまでできれば、状況は変わります。一匹狼だったAI侍たちが、それぞれの刀を磨きながら、同じ方向を向いて仕事をすることができるからです。
これからのAI競争は「個人戦」だけではない
AI時代の初期には、「誰が一番AIを上手く使えるか」が大きな差になっているのだと思います。
しかし、その先には別の競争が待っているのではないでしょうか。
「誰がAIを使える組織を作れるか」という競争です。
個人のAIスキル。
チームのKnowledge。
コラボレーション。
業務プロセス。
そしてAI Governance。
これらをつなげることによって、初めて個人のAI活用が組織のCapabilityへと変わっていく。
AI侍をなくす必要はありません。むしろ、AI侍はこれからも増えていくでしょう。
必要なのは、AI侍たちが一匹狼のまま戦い続けるのではなく、それぞれの刀を磨きながら、互いの知識を共有し、同じ方向を向いて戦える環境を作ることなのではないでしょうか。
AIという刀を磨く時代から、AI侍たちが共に戦える組織を作る時代へ。
それが、これからのAI活用における次のテーマなのかもしれません。
