会議が終わった後、「議事録を作らなければ……」と悩んだ経験はないでしょうか。
最近では、ZoomやMicrosoft TeamsなどにAIによる会議要約機能が搭載され、会議の内容を自動的にまとめてもらえるようになりました。
以前であれば、会議中にメモを取り、録音を聞き直し、発言内容を整理して議事録を作る必要がありました。それを考えると、AI議事録は非常に便利な機能です。
一方で、AIが作った議事録を、そのまま正式な議事録として使ってよいのか?というと、私は少し慎重に考えています。
特に日本語の会議では、固有名詞、製品名、数字、略語、専門用語などが正しく認識されないことがあります。また、「誰が何を言ったのか」「結局何が決まったのか」といった、議事録として重要な部分が十分に整理されていないケースもあります。
さらに、別の問題もあります。
「誰が言ったのか」を必要以上に強調すると、個人として発言しただけの内容について、あたかもその人が責任を持って主張・決定したかのような印象を与えてしまうことがあります。
また、会議中に誰かが「こうしましょう」と発議しただけなのに、それがAIによって「決定事項」として整理されてしまうこともあります。
つまり、AIが文章としてきれいにまとめてくれたからといって、その内容が、そのまま業務上適切な議事録になっているとは限りません。
英語圏のビジネス会議のサマリでは、発言者個人を逐一明記せず、議論された内容を箇条書きで整理する形式も比較的多く見られます。また、「話題に上がったこと」と「正式に決定されたこと」を厳密に分けず、Meeting Summaryとして整理するケースもあります。
そのため、英語の会議サマリとして読むと自然な文章でも、日本の業務で使う「議事録」として見ると、少し違和感がある場合があります。
そこで今回は、私が実際の業務で使っている考え方をもとに、「AI+Whisper+人間」による議事録作成方法を紹介します。
AI議事録は便利。でも「完成品」と考えない
ZoomやTeamsのAI要約の最大のメリットは、なんといっても手軽さです。
会議が終われば、AIが自動的に、
- 会議の概要
- 主な論点
- 決定事項
- アクションアイテム
などを整理してくれます。
短い打ち合わせや、後から大まかな内容を確認したいだけであれば、これで十分なことも多いでしょう。
しかし、業務上重要な会議では、私はAIの要約を**「完成した議事録」ではなく「議事録の下書き」**として扱うことをおすすめします。
特に注意したいのが、次のような情報です。
- 人名、会社名、製品名
- ERPやITシステムの名称
- 金額、数量、日付
- 略語や専門用語
- 「やる」「やらない」など、肯定・否定の正確性
- 誰が担当するのか
- 期限がいつなのか
- 決定事項なのか、単なる議論なのか
AIの要約が自然な文章になっているほど、こうした誤りには気づきにくくなります。
そこでWhisperを補助的に使う
私が試している方法の一つが、会議の録音・録画ファイルをWhisperで文字起こしする方法です。
Whisperは、音声ファイルなどから文字起こしを行う音声認識モデルです。
例えば、会議の録音ファイルが `meeting.mp4` だった場合、環境によっては以下のようなコマンドで文字起こしできます。
bash
whisper meeting.mp4 –language Japanese –model medium
実際のオプションは、使用するWhisperの実装やPC環境によって異なります。
ここで重要なのは、WhisperをZoomやTeamsのAI要約の「代わり」にすることではありません。
むしろ、
Zoom / TeamsのAI要約
+
Whisperによる全文文字起こし
というように、それぞれの特徴を活かして組み合わせることです。
「全文文字起こし」と「議事サマリ」は役割が違う
ここは意外と重要なポイントです。
AIによる会議要約は、会議全体を短く整理することに向いています。
一方、Whisperで作った文字起こしは、基本的に「会議で何が話されたか」を後から確認するための材料になります。
そして、通常のWhisperによる文字起こしでは、基本的に誰が話したのかという情報は含まれません。
これは一見すると欠点のように思えます。
しかし、私は必ずしもそうとは限らないと考えています。
例えばAIによる会議要約では、
> Aさんからシステム変更について説明があり、今後の対応について協議した。次回会議までに担当者が詳細を確認する。
というように、「Aさん」という個人を主語にした文章が生成されることがあります。
一方、全文の文字起こしをもとに議事内容を整理すると、
> システム変更について説明あり。今後の対応について協議し、次回会議までに詳細を確認する。
というように、発言者個人にフォーカスせず、会議で扱われた内容そのものを中心に整理することができます。
もちろん、発言者が重要な場合は「Aさん」を明記すればよいでしょう。
一方で、個人名よりも部署や役割を主語にした方が適切な場合もあります。
例えば、
- Aさん → システム部
- Bさん → デモ担当者
- Cさん → 経理部
といった形です。
議事録では、「誰が言ったか」をすべて残すことよりも、業務上、誰が何を担当するのかが明確になっていることの方が重要な場合もあります。
このあたりは、AIに自動判断させるのではなく、人間が最終的に判断した方がよい部分だと思います。
私が考える実用的なワークフロー
現在のAIを使った議事録作成では、次のような流れが実用的だと思います。
① 会議を録画・録音する
↓
② Zoom / TeamsのAI要約を取得する
↓
③ 必要に応じて録音・録画ファイルをWhisperで文字起こしする
↓
④ 文字起こしをAIに渡して議事録を構造化する
↓
⑤ AI要約とWhisperベースの議事まとめを比較する
↓
⑥ 録音・録画を人間が高速再生して最終確認する
↓
⑦ 正式な議事録として確定する
ポイントは、最初から人間が録音を聞きながら議事録を書くのではなく、まずAIに下書きを作らせることです。
そのうえで、最後に人間が原音を確認します。
録音を1.5~2倍速で聞く
「結局、録音を全部聞き直すのではAIを使う意味がないのでは?」
と思われるかもしれません。
もちろん、通常速度で1時間の会議をもう一度聞けば、1時間かかります。
しかし、録音・録画を1.5倍速や2倍速で再生すると、かなり短時間で確認できます。
例えば60分の会議なら、
- 1倍速 → 60分
- 1.5倍速 → 約40分
- 2倍速 → 約30分
です。
すでにAIによる議事録の下書きができているので、最初からメモを取りながら聞く必要はありません。
さらに、録音を聞き直す時間を、必ずしも机に向かって確保する必要もありません。
例えば、オフィスと自宅との移動中などに音声を聞き直せば、机に向かっている時間を他の仕事に使いながら、会議内容の最終確認を行うこともできます。
確認するのは、
- 数字は合っているか
- 日付は合っているか
- 人名・会社名は正しいか
- 決定事項は正しく理解されているか
- Action Itemの担当者は誰か
- 決定事項と、決定を伴わない単なる提案・発議が混同されていないか
- AIが重要な発言を落としていないか
といったポイントです。
つまり、AIに議事録を書かせ、人間は「校正者」として録音を確認するという役割分担です。
特に重要なのは「決定事項」と「Action Items」
議事録を作る目的は、会議で話されたことを、誰の発言だったかも含めてすべて文章にすることではありません。
重要なのは、
「何が話題に上がったのか?」
「結局、何が決まったのか?」
「次に誰が何をするのか?」
といった要素が整理されていることです。
そのため、私は議事録を作る際には、単なる会話の要約ではなく、例えば次のような構造を意識しています。
Decisions — 決定事項
会議で正式に決まったこと。
Action Items — アクション
誰が、何を、いつまでに行うのか。
Open Issues — 未決事項
まだ結論が出ておらず、今後確認が必要なこと。
Key Discussion Points — 主な議論
決定に至るまでに議論された重要なポイント。
このように整理すると、議事録が単なる「会話のまとめ」から、次の仕事につながる業務管理ツールになります。
AIに「それっぽい議事録」を作らせない
AIを使った議事録作成で、もう一つ注意したいことがあります。
AIは文章を非常に自然にまとめることができます。
しかし、自然な文章と、正確で業務に使える議事録は、必ずしもイコールではありません。
特に、会議中に結論が出ていないにもかかわらず、AIが文脈から「おそらくこういう結論だろう」と整理してしまう可能性があります。
そのため、AIに議事録を作らせる際には、
> 「発言内容から確認できる事実だけを記載してください。明確に決定されていない事項を決定事項として推測しないでください。」
といった指示を加えることも有効です。
また、Action Itemについても、
> 「担当者が明示されていない場合は推測せず、『担当者未定』としてください。」
としておくと、より安全です。
「AIに任せる」のではなく「AIを重ねる」
ここまでの話をまとめると、私が考えるポイントは、一つのAIにすべてを任せないことです。
例えば、
Zoom / Teams
→ 会議の概要を把握する
Whisper
→ 会議で実際に話された内容を文字として残す
生成AI
→ 文字起こしを議事録として構造化する
人間
→ 原音を確認し、重要事項を最終判断する
という役割分担です。
これは議事録に限った話ではありません。
AIを業務に導入するときには、
「AIに全部やらせる」よりも、「AIが得意な部分と人間が確認すべき部分を分ける」
という考え方のほうが、実務では使いやすいと私は考えています。
まとめ
ZoomやMicrosoft TeamsなどのAI議事録機能は、これまで議事録作成にかかっていた時間を大幅に削減してくれる便利なツールです。
一方で、特に日本語の会議では、専門用語、固有名詞、数字、担当者、期限などについて、人間による確認が必要になる場面があります。
また、議事録では単に「何が話されたか」だけでなく、「何が決まったのか」「誰が何をするのか」を正確に整理することが重要です。
そこで、
AI要約
+
Whisperによる文字起こし
+
生成AIによる構造化
+
人間による最終確認
という組み合わせを使うことで、効率と正確性の両方を高めることができます。
そして最後に、録音・録画を1.5~2倍速で確認する。
これなら「AIに任せて終わり」ではなく、AIを最大限活用しながら、人間が最後の品質保証をすることができます。
AI議事録を「完成品」として使うのではなく、優秀なアシスタントが作った下書きを、人間が最終確認する。
現時点では、このくらいの距離感が、業務でAI議事録を使う上ではちょうどよいのではないでしょうか。
